Hoshina Music Officeのレンタル楽譜はどうしてこんなに高い(安い)のですか?

レンタル楽譜は高い?

レンタル楽譜は、一般に販売譜より割高な印象があるかと思います。
自分のものにならないのに、何故より高い金額を払わなければならないのか、といった声もよく聞きます。

これに対しては、現代作曲家の曲は少数部数印刷になるため、どうしても割高になる、または実はレンタル楽譜は楽譜返還とチェックの作業が入るため、販売楽譜よりも人手がかかる、などの説明もありますが、一番の理由は、作曲家は、基本的に自分で自分の作品の値段を付けることができる、という一言につきます。

極端な例ですが、敢えてレンタル料を非常に高く設定し、プロオケレベル(つまりそのレンタル料を払えるレベル)の団体以外の演奏を実質上難しくして、世の中に傷の多い演奏が出回らないようにコントロールする、といったケースもあります。(殆どが過去の著名な近現代作曲家の作品ですが。)

一方、印刷譜の場合は、最初に大量に印刷する性質上、あまりに高い値段では売れずに在庫を抱えることになるため、そこそこ皆様に買ってもらえる値段に設定する必要があります。このため、レンタル楽譜よりは値段の設定の自由度が低いと言えます。

絵画や彫刻などの美術品と異なり、作品が楽譜という印刷媒体になる音楽では、「何故こんな紙切れに何万も」と思ってしまうのかも知れません。
しかし、その紙切れに書かれた音楽を生むために、作曲家が膨大な時間と労力を注いでいることをご理解いただければと思います。
そして、自分の愛着のある曲にどんな値段をつけるかに、ある意味作曲家の思い入れが反映されているとも言えます。

作曲家により千差万別ですが、保科洋の作曲に要する時間は、10分程度の曲でも、実際に書き始めてから約6ヶ月、構想から含めると約1年に及びます(管弦楽曲や吹奏楽の場合)。それだけの時間、寝ても覚めても曲の事を考え続けて、ようやく1曲が生まれます。

とはいえ、殆どの場合は、作曲家もそれほど法外な値段は望みません。
当然市場原理が働きますので、あまりに高ければ誰も買って(借りて)くれないでしょうし、安過ぎると今度は作曲家が創作によって生活することが出来ず、創作活動に支障が出ます。
ですので、現実には、これらを勘案して決めています。

出版楽譜の場合

出版楽譜の場合、作曲者がJASRAC会員であれば、楽譜出版社はJASRACに著作権使用料として、楽譜の定価の10%x発行部数を支払います。
15000円の楽譜を100部発行したとして、出版社からJASRACに支払われるのは15万円。
このうち、2割と消費税をJASRACが手数料として差し引き、作曲家に支払われるのは12万弱になります。

しかし、15000円の現代作曲家の楽譜を100部売るのは、並大抵のことではありません。
数年に一度、ヒット曲が出て、100部売れたとしても、作曲家に還元されるのは12万円です。
部数が大きければ多少はまとまった金額にはなりますが、どんなに大きなヒットがでても、販売対象となる顧客の数を考えると、たとえば1000部も出版が可能な曲はほとんどないと思います。

また、楽譜出版社は、売れるかどうかわからない楽譜の在庫を抱え、しかも最初に発行部数分の著作権使用料をJASRACに支払わなくてはなりません。
楽譜の違法コピーが横行した結果、多くの音楽出版社が倒産した理由も、お分かりいただけるかと思います。

しかし、たとえ印税収入が少なくても、多くの作曲家は楽譜が出版されることを喜びます。それは、やはり、出版楽譜の方が圧倒的に多くの方の手にゆきとどき、演奏の機会が増えるからです。
ただ、上記のような事情で、楽譜出版にはリスクが伴うため、音楽出版社が全ての楽曲を出版するのは不可能です。

もっと言えば、楽譜出版という形態は、それだけでは(殆どの)作曲家の生活を支えることが出来ません。
また、昨今の、音楽が芸術としてよりむしろデジタル情報として売買される風潮の副産物として、殆どの音楽出版社も、もはや楽譜出版だけでは成り立たなくなっています。

従って、作曲家や出版社がこの曲は是非広く皆様に演奏して欲しい、と願う曲を、比較的購入しやすい価格で出版し、販売する一方で、利益の薄い部分やリスクの部分を別の方法で補う必要があります。

レンタル楽譜の場合

レンタル楽譜は、出版楽譜に比べると、かなりリスクが抑えられ、かつ作家への還元率が高い方法であると言えます。
出版社は多くの在庫を抱える必要がないため、在庫リスクの軽減分を作曲家に契約料として支払うことができます。

また、発行部数の関係で、出版が不可能な楽曲も提供することができます。
更に、返すことが義務づけられているため、「中古」の楽譜が出回ることがありません。

既に漫画などで問題になっていますが、「販売」された本や楽譜は、個人が合法的に転売したり譲ったりすることができます。この転売の市場が大きくなりすぎると、折角楽譜を出版しても出版社や作曲家のもとに利益が還元されない構図が出来上がってしまいます。

このため、レンタル楽譜は、出版楽譜のリスクの部分を補う形態として、近年ますます一般的になりつつあります。

実は私達は昔、他社レンタル会社に、楽曲を提供する代わりに、レンタル楽譜料金を販売楽譜と同程度に抑えてもらえないか、と相談したことがあります。その時のご回答は、経費そのほかを差し引くと、その金額ではとても作曲家の皆様のお役に立てません、とのことで、実際に先方からご提案頂いた報酬は、販売楽譜の印税率よりずっと良いものでした。

こと吹奏楽の楽譜の場合、各出版社は作曲家のために大変力を尽くして下さっており、楽譜貸しで暴利をむさぼっているなどということは決してありません。

レンタル楽譜が販売譜より高いのは、(意図的に高く値段を設定している場合でない限り)むしろそれでようやく作曲家にとっても出版社にとっても「息がつける」金額であるからで、むしろ販売楽譜の方が、少なくともクラシック分野では、金銭的にも、法的にも、作曲家という職業を支えるのが大変難しい形態であるのだということをご理解いただければ幸いです。

Hoshina Music Officeのレンタル楽譜が安いのは何故?

Hoshina Music Officeのレンタル楽譜は他社のレンタル楽譜より安いケースがありますが、これは中学、高校などの若い世代の人になるべく多く演奏していただきたい、という作曲者の希望のもと、楽譜の浄書(※)、webの構築及び管理、楽譜手配から発送、その後のサポートに至るまで、全て家内制手工業で行っているからです。
(※楽譜を読み安いようにレイアウトする作業です。特に本番までの準備期間が短いプロの演奏家にとって、楽譜の読みやすさは大変重要です。現状、コンピュータソフトの楽譜は、プロの浄書職人のレベルには遥かに及びませんが、Hoshina Music Officeの楽譜は価格を抑えるため、Finaleの出力をそのまま利用しています。)

現在主に3人で運営していますが、誰も給料は得ていません。
この3人に、仕事量に見合った給料や社会保障費を支払えば、むしろ他社よりずっと高い金額を設定することになるかと思います。
また、楽譜が商業印刷ではない、商業宣伝をしていないので宣伝料がまったくかからない(この部分もかなり大きいです)などの違いも大きく価格に影響しています。

そういう事情ですので、同じ保科洋の作品なのに、他社のレンタル楽譜は不当に高いのではないか、というご心配は無用です!
他社で扱われている保科洋の作品にも素晴らしい曲が沢山ありますので、是非ご検討下さい。